外国語を喋れるのに伝わらない人、喋れないのに伝わる人

こんにちは、救急科医師の久津(くづ)です( ̄▽ ̄)

50代女性のフランス人が、腹痛を訴えて救急車で運ばれてきた。なにやら大企業のお偉いさんらしい。専属の通訳を連れ添ってきた。

来てみたのはいいものの、通訳の女性は本社に電話をしなければいけないとか言ってすぐに離れてしまった。久津は英語があまり得意でない。それでも仕方がないので英語で問診を始める。

 

すると!あろうことかこのフランス人、日本語はおろか英語もあまり喋れないということが分かった。どうしよう・・・さしあたって通訳の女性を待つしかない。久津が途方に暮れていると、後ろから研修医の大熊が近づいてきた。

ぼんじゅーる。

研修医 大熊


大熊が会心の笑みで話しかける。大熊は頭はあまりよくないが、体はよく動くという典型的な体育会系の研修医である。大熊は久津よりさらにヘタクソな英語で、英語がほとんど通じないフランス人にどんどん話しかけ始める。

大熊は身振り手振りがいちいち大げさなので、ヘタクソな英語でも意味が通じてしまう。おそらく日本語で話しかけても通じていたであろう。大熊はさらに調子に乗って去年パリに行ったことまで話しはじめ、おおいに盛り上がる。大熊すごい。

とにもかくも、まがりなりにも問診が進み、CTの撮影を行うことになった。そしてその結果、フランス人は憩室炎という病気であることが分かった。

 

憩室とは老化によって脆くなった腸の壁が、糞便の圧力によってポコッと腸の外に飛び出してしまったポケット状の構造である。そういった狭い隙間には細菌が溜まりやすく、炎症を起こしたものが憩室炎である。

日本語で説明しても上記の通り難しいのに、これをフランス人に説明するのは絶望的であった。そこにちょうど通訳の女性が帰ってきた。助かった。

通訳の女性に、病状の説明を通訳して欲しい旨を頼んだ。

分かりました、私がお伝えします、フランス語で!

通訳


なんだか通訳の女性はフランス語を喋れることを自慢するような口調である。通訳なんだから当然なのだと思うのだが・・・

しかし憩室炎の説明を日本語でし始めると、通訳の女性はとたんに混乱し始めた。

えーっと、腸ってなんて言うんでしたっけ?日常のフランス語なら完璧なんですけど医療英語は分からないからなー。えーっと・・・

通訳

 

通訳の女性がたじろいでいると、大熊は突然、腸の絵を描き始めた。

じす いず ゆあ ぼうえる!(これはあなたの腸です)

研修医 大熊


そしてまた大熊のターン。大熊の絵を用いた説明にしきりに頷くフランス人。大熊ほんとすごい。おおよそ説明が終わったところで、Dr.ヤブは入院の必要があることを通訳の女性に伝えてもらった。

するとフランス人は断固入院したくないと言い始めた。翌日にはフランスに帰国することが決まっており、帰国後に本格的に治療をしたいというのだ。しかしフランスまでは直行便でも12時間かかるという。

救急科医 くづ

とりあえずは腸を休めて、しばらく絶食して点滴だけで生活してもらわなければいけません。12時間も飛行機にいる間、憩室炎の部分が破けでもしたら責任はとれませんよ。

とたしなめると、通訳の女性はフランス人に訳しもせず、自慢気に言い放った。

でも大丈夫ですよ。帰りはビジネスクラスですから♪すごくゆったり帰れるんです!

通訳


だーかーらー、お前はなんでちょいちょい自慢を挟んでくるんだ。だいたいお偉いさんなのはフランス人であって、お前じゃない。久津は金魚の糞を人型に塗り固めたような面構えの通訳の女性に辟易とし始めた。

 

そこで三度大熊が登場。再びヘタクソな英語で、しかし抜群のコミュニケーション能力でフランス人の説得を始める。すっかり大熊を信用したフランス人は、無事帰国を遅らせ、しばらく入院することを承諾してくれた。

外国語を単に喋れるだけでは意思疎通は図れない。逆に真に賢い人間の前では、言葉の壁など薄っぺらなものなのかもしれない。大熊の意外な一面を思い知らされた出来事であった。

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