フィギアスケートで虐待する母親

こんばんは、救急科医師の久津(くづ)です。

小学生の女の子が、転んだあとから手足が震える、といって救急外来にやってきた。しかし診察をすると、症状がどうにも医学的に説明できない。ヒステリー発作だろうか?気になって過去のカルテを確認したが、そのような記載はなかった。

しかし、ここ一年で3回も怪我で救急外来を受診していることが分かった。

救急科医 くづ

よくお怪我をされているのですね。最近転びやすくなった、などということはありますか?
あぁ、この子フィギアスケートをやっているんで転ぶことはしょっちゅうなんですよ。

母親


なるほど。確かにフィギアスケートは転びやすそうだ。と、納得したところに今度は父親が診察室に入ってきた。病院着を着て。

救急科医 くづ

・・・?それはうちの病院着ですよね?当院に入院されていらっしゃるのですか?
はい・・・

父親


変だ。何かが変だ。

救急科医 くづ

失礼ですが何故?
・・・脾破裂です。

父親


脾破裂?脾破裂とは穏やかではない。脾臓という臓器が破裂した状態のことで、交通事故などで大きな衝撃が体にかからないと滅多に起こらない。

救急科医 くづ

交通事故か何かをされたのですか?
・・・いやあの・・・

父親

今はこの人のことは無関係ですよね?この子は明日の練習に行ってもいいのでしょうか?フィギアスケートは一日さぼると取り戻すのにすごく時間がかかって・・・

母親


この母親が心配しているのは娘なのだろうか、娘のフィギアスケートなのだろうか。あれこれ理由をつけて母親を引きはがし、女の子・父親から一人ずつ話を聞き出した。

 

どうも女の子は直接的な暴力はふられていないが、フィギアスケートの練習に毎日連れていかれる、という精神的な虐待にあっているようだ。フィギアスケートに全身全霊を注ぐ母親の手前、練習を休めない女の子はわざと怪我をしてなんとか休んでいたらしい。

見かねた父親が、少しは練習を休んだら、と提案したところ母親と口論になり、最終的には蹴られたとのこと。それで脾破裂、入院である。

この子にとってのスケートリンクはさぞ冷たかったであろう。手足が震えるのも当然である。

 

頸椎のX線にひびに見えなくもない所見があったので、これ幸い(言葉は悪いが)として入院させ、フィギアスケートにドクターストップをかけた。そしてそのまま児童相談所に連絡。前々から児童相談所が目をつけていたらしく、すんなり保護の方向で話が進んでいった。

入院中何度も「あの子はいつ練習を再開できるんですか?」と聞いてくる母親に久津は辟易とさせられた。

子供で自己実現しようとするんじゃねぇ。一行で矛盾してんだよ。

と言いかけて飲み込んだ。こんなことを言って女の子にいいことは何一つない。

 

とはいえ事態は動き出した。この女の子が、自分を支配するすべての執着を振り切って、再び自由に跳ぶことを切に願う。

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