花が咲いた日(※閲覧注意)

こんばんは、救急科医師の久津(くづ)です。

60代の女性が、血を吐いた、という触れ込みで息子に連れられ救急外来にやってきた。

久津は、独特の異臭と、左右差のある胸を見てすべてを悟った。息子を待合室にだして患者だけを診察に残す。

救急科医 くづ

その血は口から出てきたのですか?
・・・いえ。

60代女性

救急科医 くづ

お胸を診察してもよろしいですか?
・・・はい。

60代女性


服をめくると、腐った魚のような匂いが診察室に立ち込めた。女性の左胸には、無造作にこねた挽肉のような肉塊がのっていた。

乳がんである。

そこから出血しており、それが衣服を赤く染めていた。息子は血を吐いたと思い込んだというわけだ。2年前から出現し、徐々に大きくなっていったという。

検査を進めると、肝臓と複数のリンパ節に転移していた。貧血もひどい。よく歩けたものだ。

救急科医 くづ

このお胸のできものから血が出て貧血になっていますね。今日は入院ですよ。詳しいことは乳腺外科の医師から話がありますからね。
入院は無理です。

60代女性

救急科医 くづ

・・・なぜ?

聞けば女性の夫は10年前に酔ってホームから転落し、脳挫傷を患って以降24時間介護が必要とのこと。介護から離れることができず、自身のことで病院に行く暇がなかったらしい。

救急科医 くづ

まぁそこは息子さんは任せましょう。まずはご自身のお体のことを考えないと、介護もできる体調ではないでしょうし。
・・・

60代女性

私は、今は、そのー、雇われていない?状態なんですよ。それで2か月に一度障害年金を9万円いただきまして、それで衣食住以外のことを賄っているという状態なんです。衣食住のことは・・・大変心苦しく思ってはいますが親に頼っている状態でして。躁鬱?という診断なんですね。今は軽めの鬱の状態がしばらく続いている状態です。ですからやろうとしても?なかなかやろうと思うことができない?状態なんですね。それでも、ま、例えばセールのときに?買い物を手伝ったり、そういう形で父の介護を?手伝っていたりはするのですが。

患者息子


息子は40代くらいなはずだ。顔だけ見れば甘いルックスで、言葉遣いも丁寧と言えないことはない。しかし皺ひとつないツルっとした顔貌は、体だけ成長してしまった子供のようで不気味であった。

救急科医 くづ

なるほど。それは大変ですね。お父様の介護に関しては別の方法を考えた方がよさそうだ。

Dr.ヤブは契約していたケアマネージャーと連絡をとり、緊急で一時入所できる施設を確保した。こっそりと、息子の様子もしばしば見に行くようにも依頼した。金銭的にも余裕がなさそうなので、生活保護申請もソーシャルワーカーに検討を依頼した。

そのことを女性に伝えると、ホッと安堵で表情を崩して礼を言った。自身の体ことは、まだ何一つ解決していないというのに。

困ったときは、声を上げてほしい。今日本で最も税金を投入されているのは医療の分野だ。我々はリッチだ。だからあなたが、多少畑違いのことで病院に来たとしても、助けてあげられるだけの心の余力はある。

困ったときは、助けてと言ってくれ。